寝台特急「北斗星」の深き沼 その5 | 夜汽車の汽笛への憧情

寝台特急「北斗星」の深き沼 その5

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前回に続いて「北斗星」歴史編。

今回は後半1990年代末からスタートです。

 

 

第四章.新星「カシオペア」登場!「北斗星」は円熟期へ

 

20世紀も世紀末が迫った1999年。JR東日本は北海道向けに新たな列車を登場させます。

ステンレスボディーの新型客車E26系を擁する「カシオペア」号です。

写真は既にEF510牽引となっていますが、登場当初は上野-青森間はEF81牽引で、カシオペア用の専用カラーの機関車も用意されました。

当時、JRグループで寝台客車の新規形式を作るのは初めてのことで、E231系グリーン車の車体構造を応用した総二階建てのステンレスボディーは、これまでの客車と一線を画するものになりました。

設備は全車A寝台で、「北斗星」の「ロイヤル」を上回る「カシオペアスイート」や「ツインDX」の豪華版ともいえる「カシオペアツイン」等で構成されています。

この豪華列車「カシオペア」は1編成のみ用意されたため、運行は1つの編成が往復する形となり、上野発が月・木・土曜、札幌発が火・金・日曜日という運転体系となり、水曜は運休となりました。

 

さて、「カシオペア」が登場する一方で、「北斗星」は定期列車が3往復から2往復に減便され、JR東日本・北海道で交互に担当していた3・4号が臨時列車の81・82号となり、これまでの5・6号が3・4号にスライドする形となりました。

 

編成は以下のようになります。

 

北斗星1・2号(JR北海道担当)

号車番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11  
設備 Bコンパート デュエット デュエット デュエット ソロ ソロ・
ミニロビー
食堂車 ツインDX ロイヤル・
ソロ
ロイヤル・
デュエット
Bコンパート 電源車

 

北斗星3・4号(JR東日本担当)

号車番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11  
設備 B寝台 B寝台 B寝台 B寝台 B寝台 ロビーカー 食堂車 ツインDX ロイヤル・
ソロ
ロイヤル・
デュエット
B寝台 電源車

 

「北斗星」の定期列車は減ったものの、多客時には臨時の81・82号や「夢空間」を連結した「夢空間北斗星」、モノクラスの「エルム」も運転され、「カシオペア」を加えた上野-札幌間の夜行列車は一層にぎやかなラインナップになったと言えるでしょう。

 

 

 

第五章.「夢空間」離脱と「北斗星」の黄昏

 

「カシオペア」を加えて隆盛を極めていた「北斗星」ですが、使用している24系客車は元々の製造が1973~1980年と老朽化していること、北海道新幹線計画の進捗が進んだことに加え、観光列車の需要も減少傾向になりつつあり、先行きが怪しくなってきます。

 

2003年、「北斗星」に華を添えていた「夢空間」が多客臨(一般の人が乗れる臨時列車)から脱退し、基本的に団体専用になっていきます。この後も「夢空間北斗星」の名を称する列車は運行されますが、団体専用列車としての運転になりました。

 

2004年には利用率の低下に伴い、3・4号が閑散期(4~6月)に個室比率を増やす施策がとられます。

この時は以下のような編成になりました。

 

北斗星3・4号(JR東日本担当)

号車番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11  
設備 B寝台 ツインDX ロイヤル・
ソロ
ロイヤル・
デュエット
B寝台 ロビーカー 食堂車 ツインDX ロイヤル・
ソロ
ロイヤル・
デュエット
B寝台 電源車

 

ちょうどB寝台3両が8~10号車と同じ内容に置き換わった形になります。

 

ロイヤル4両連結のリッチな編成で豪華さはアップしますが、定員は低下しており、逆に言えばこれでも需要は満たせるということでもありました。この施策は2007年まで続けられました。

なお、この「豪華編成」は、奇しくも2015年の臨時化後と同じものでした。

また、上記以外の期間では2~4号車はB寝台ではあるものの、実際には2・3号車が欠車となるケースも多くみられたようです。

一方で、1・2号については特に動きはなく、比較的快調だったようです。

2006年には臨時の北斗星が廃止。2007年には北斗星用のB寝台車を使った輸送力列車「エルム」が廃止となります。

こうして、次第に「北斗星」とそのファミリーは本数を減らしていくのでした。

 

第六章.北海道新幹線の足音と「北斗星」の終焉

 

2008年。北海道新幹線の工事進捗にともない、青函トンネルの新幹線対応工事の時間を作るため、定期列車の「北斗星」は1往復体制となりました。

これまでJR東日本とJR北海道で1本ずつ受け持ってきた「北斗星」でしたが、1往復を双方の車両で賄うことになりました。

これに伴い、以下のような編成を組むことになりました。

 

北斗星号(JR北海道・東日本共同運行)

号車番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11  
設備 Bコンパート デュエット デュエット デュエット ソロ ソロ・
ミニロビー
食堂車 ツインDX ロイヤル・
ソロ
ロイヤル・
デュエット
B寝台 電源車
所属 JR北海道 JR東日本

 

一見車種構成は1・2号と似ていますが、1~5号車がJR北海道、6~11・電源車がJR東日本の車両で編成が組まれ、異例の他社間での編成組成となりました。これに伴い、11号車はBコンパートメントから、解放式のB寝台となっています。

一方で「カシオペア」は特に変化もなく、相変わらず1週間に3往復の体制で走っていました。

 

これに伴い、余剰となったJR北海道の「ツインDX」、「ロイヤル・ソロ」、「ロイヤル・デュエット」、食堂車は既に車齢が40年近いこともあって廃車となり、一部が遠くミャンマーに旅立って行きました。なお、JR北海道で唯一の「ロビーカー」で、特異な外観から異彩を放つオハ25 551は、99年以降運用がなくなり、主に臨時列車用として活躍していましたが、ついにここで力尽きることになりました。

また、JR東日本の客車もB寝台車の一部が一部予備を残して廃車となっています。こちらも「ロビーカー」が余剰となり軒並み廃車となりましたが、1両は予備車として残り、「北斗星」全車ロビーカーは辛うじて命運を繋ぐことになりました。これが後程思わぬ活躍をすることになります。

 

一方、「北斗星」ファミリーとして活躍した豪華客車「夢空間」も老朽化という名目で2008年3月を最後に廃車となってしまいました。

24系の中では唯一の平成生まれでしたが、他の先輩たちより先に鉄路から去っていったことになります。

なお、クルーズトレインの先駆けとも言える「夢空間」客車は3両とも静態保存され、現在もその姿を見ることが可能です。

 

徐々に先行きが怪しくなってきた「北斗星」ですが、明るい話題もありました。

上野-青森を長距離運行しているEF81形電気機関車の老朽化が問題となってきたことから、2010年に新型の電気機関車EF510形500番台が「北斗星」と「カシオペア」に投入されます。

 
 

 

定期のブルートレインにJR世代の新型機関車が投入されるのは初めてのことで、「北斗星」「カシオペア」の塗装に合わせた装いとなっています。

なお、EF510形はJR貨物が開発した交直両用のインバータ機関車ですが、完全新規形式とならずに貨物用機関車がベースとなった背景には、「北斗星」「カシオペア」撤退後にJR貨物へ売却される前提があったと言われています。北海道新幹線開業後に廃止となるのは、概ね既定路線だったということなのでしょうね。

 

さて、JR北海道担当の1~5号車の「ソロ」と「デュエット」ですが、「ソロ」はわずか2両、「デュエット」も6両しかない状態で、1往復とはいえ予備のない状態となっていました。そこで、検査時の余裕を持たせるため、2011年2月ごろから、2号車が変更となり以下のようになりました。

 

北斗星号(JR北海道・東日本共同運行)

号車番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11  
設備 Bコンパート B寝台 デュエット デュエット ソロ ソロ・
ミニロビー
食堂車 ツインDX ロイヤル・
ソロ
ロイヤル・
デュエット
B寝台 電源車
所属 JR北海道 JR東日本

 

2号車のB寝台には「はまなす」で使用されている予備車が使用され、珍車「オハネフ24形500番台」が担当する姿も多くみられました。

直後に発生した東日本大震災でしばらく運休となり、一部鉄ヲタの間では「このまま廃止となるのではないか」という危惧もありましたが、無事に復活して一息ついた形となりました。

しかしながら、時の流れは無情で、新幹線の工事は進展する一方で「北斗星」客車は老朽化が進んでいきました。

また、強い自粛ムードや消費税率のアップなどで世の中全体に余裕がなくなってきたことで利用客が減少したことも重なり、2015年に「北斗星」はついに最終章を迎えることになります。

 

2015年3月13日。北海道新幹線の試験走行で線路をあけるため、ついに「北斗星」の定期運行を終了。4月から臨時列車扱いとなり、「カシオペア」との交互運行されることになりました。これに伴い、JR北海道車は運用を撤退し、JR東日本の車両のみで運行されることになります。

臨時化後の編成は以下のようになりました。

 

北斗星号(JR東日本担当)

号車番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11  
設備 B寝台 ツインDX ロイヤル・
ソロ
ロイヤル・
デュエット
B寝台 ロビーカー 食堂車 ツインDX ロイヤル・
ソロ
ロイヤル・
デュエット
B寝台 電源車

 

上記の通り、2004~2007年の閑散期と同じ内容ではありますが、ロイヤル付きの客車を4両もつないだ豪華版となりました。

豪華寝台特急と言われた「北斗星」のラストを飾るのに相応しい編成になったと言えるのかもしれません。

6号車には全室ロビーカー連結されてます。7年ぶりの復活になりますが、2008年以降定期運用を失って以来、訓練や突発的なイレギュラーの発生以外では尾久の車庫の片隅で眠っていたオハ25 503が奇跡の復活を遂げています。

 

 

一方で、1~6号車を務めていたJR北海道所属の車両はさすがに老朽化が激しく、全車廃車となりました。

 

余談ですが、これにともないEF510形500番台に余剰が発生し、当初の予測通り大半が順次JR貨物に転職。日本海側の貨物を牽引することになりました。残りはカシオペア塗装を含めて5両のみとなりました。

 

弟分の「カシオペア」と共に半定期列車として、また日本国内最後のブルートレインとして走っていた「北斗星」でしたが、ついに終焉が訪れます。

運転継続の可能性も模索された様ですが、昼間は新幹線、夜間は貨物列車が多数走行する青函トンネルにおいて、保守の時間帯を取るには夜行列車を走らせる余裕がないことや、24系客車の老朽化が深刻化している事などを受け、ついに廃止が決定されました。

 

青函トンネル開業と同時に誕生し27年間、多くの夢を乗せて走ってきた「北斗星」は、上野発は2015年8月21日に、札幌発は2015年8月22日に最終列車が運行され、多くのファンに見送られながら鉄路を去っていきました。

そして、多くのファンを魅了した青い客車達は、さすがに車齢40年近くの車両ばかりで、一部の保存車を除き、帰らぬ旅へ赴いたのでした。

 

 

 

余談ながら、弟分の「カシオペア」も翌年3月に運行を終了。こちらはまだ車両が若いため、クルーズ列車に転身することになりました。

 

以上で歴史編は終わりです。

 

次回からはいよいよこのシリーズの本丸である、客車編に移って参ります。